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第4話 本物のジャムを求めて|魔法のジャム
私はジャムについて調べつづけました。本物のジャムってなんなのか?
ジャムとは果物に砂糖を加え、加熱濃縮することによって果物の水分を砂糖に置き換え、酸とペクチンの力によってゼリー化することにより、酸とともに砂糖がペクチンを編み目のようにつなぎ、その編み目の中に水を抱え込んでしまう状態を作り出したものといえます。砂糖には抱え込んだ水分をなかなか放さないという性質があるために、微生物が細胞の水分を奪われて活動できなくなるわけです。あんなに、フレッシュなジャムの中が、実は、微生物や、菌にとってカラカラの水不足の状態で生きることが出来ない世界なんて、本当に不思議ですね。
では、どういう状況で、ジャムはできるのでしょうか?
1%以上のペクチンと
60~65%程度の糖(完成時)と
pH2.9~3.4になる程度の酸
というとても微妙な条件が必要になります。
これを、科学的に実行するには、少なくとも、糖度計とpH計、そして、微量天秤が必要になりますが、ジャムはこれらが発明される前から、生きる知恵として作られてきました。
では、ぶどうの酸と糖についてみてみましょう。
初期 細胞分裂が盛んにおこり、勢いよく果実は成長しますが、外観はまだ緑色の小さな果実で、酸は蓄積始めますが、糖はまだ送られてきません。
前期 徐々に生育の速度は遅くなり、酒石酸とリンゴ酸は共に増加しヴェレーゾーン(着色時期)に近付くと果実の肥大は一時停止します。
中期 実は柔らかくなり始め急速に糖の蓄積が行われ、同時にリンゴ酸が果実のエネルギー源として消費されるため、酸は減少し、果皮に色がつきはじめると、急激に香りの化合物が生成され、やがて、これらの変化は終了します。
後期 この後は果粒から水分が蒸発して果実の重さが減少するので、見かけの糖度は上昇し続けます。糖度は濃縮され濃厚な香りを発します。
そもそも、ペクチンは
「ペクチニン酸を主成分とする植物由来の多糖類の混合物」を意味します。
ペクチン質の主成分であるペクチニン酸は、細胞壁を構成するセルロースと同じような多糖類(糖類が鎖状に連なったもの)ですが、セルロースはグルコースという糖だけ材料にした多糖類なのに対し、ペクチニン酸は主成分はガラクトースが酸化されたガラクツロン酸のほかに、ラムノース、キシロース、ガラクトース、アラビノース、グルコースなど様々な糖からなる複合多糖類なので、性質も様々、こうだという性質があるわけではありません。
しかも、直鎖だけでなく側鎖(枝分かれした部分)を持っていますので、構造は遙かに複雑です。そのために、ペクチニン酸の正確な構造は現在でも解明されていないといえます。逆に複雑な構造があるからこそ、一口にペクチンといってもその機能や性質は植物によって様々で、リンゴのペクチンとカンキツのペクチンではかなりの違いがあり、その違いが、いわばリンゴとカンキツの(特に煮たときの)食感の違いを生むことになります。
果実が、未熟のときは細胞壁のセルロースとしっかり結合した[プロトペクチン]で水に溶けず、適熟のとき(食べ頃)[ペクチン]として存在し、水溶性、 過熟のときは[ペクチン酸]となってしまいます。しかも、ゲル化作用があるのは[ペクチン]のみです。
さて、あなたなら、添加剤がない時代に、どうやってジャムを作りますか?ペクチンの含有量は、フルーツによって様々です。特にぶどうは、ペクチンがワインに入ってしまうと、メチルアルコールができてしまう為に、ペクチンの少ないものもあり、0.2%~1.0%と、幅広い値がある様です。
手作りジャムの発祥は北欧 デンマーク、ノルウェー、スウェーデン と云われていますが、例えば、国土の多くが農耕に適さないノルウェーでも、リンゴ、サクランボ、イチゴ、ブルーベリー、コケモモ、ラズベリーといったベリー類が名高いのはご存知のとおりです、例えば、いちごの糖分が、8%、ペクチン含有量が、0.6%、pHが3.4だとすると、単純に、ペクチンを壊さない程度の温度で鍋で煮込んで7.5倍まで濃縮すると、ペクチン含有量4.5%、糖分60% pH3.4 となり、いちごだけでジャムを作れることになります。
私の住むところも、冬にはー20度程になることがあるのですが、庭にいちごを植えています。色々な種類のいちごの苗を買ってきては植えてみているのですが、ただ1種類のいちごだけが、ほぼ野生状態でも小さな実をつけます。そして、これらは、少しづつずれて熟してゆきますので、pHが低いいちごから、糖度の高いいちごまで、一度で収穫できないこともありません。ひょっとすると、これらをうまくブレンドして煮込めば、いちごだけでジャムができるのかもしれませんね。
ただ、今の話だと100gのいちごジャムを作るのに、750gのいちごが必要になりますし、ここまで、焦がさず煮詰めることができるのか心配です。でも、他に、穀物が育たず、人口が少なく、肉類はジビエだとすれば、ジャムは、そこで生きる為の必須アイテムとなるでしょう。ゲルマン民族の血をひく彼らなら、そんなレシピをあみだしても、不思議ではありませんね。
あくまで仮説ですが、砂糖が流通する以前は、そんなジャムのレシピが伝えられていたのかもしれません。
わずか1%のペクチンが、ジャムの糖分を、香りを包み込み、そのジャムの本当の味や香り、食感を決めるということ、現在一般に販売されているジャムの殆ど全てに、リンゴの芯や皮に由来するの添加用のペクチンがつかわれています。成分表をみて頂ければわかります。英国、フランス、ドイツの 最高級ジャムにすら、添加用のペクチンが使われているのです。これでは、殆ど全てのジャムに、正確にはリンゴミックスジャムと名前をつけるべきかもしれません。
戦後の初期の給食に、洋食を促す目的でパンとジャムがだされましたが、そのいちご味のジャムにはちゃんと、リンゴミックスジャムと書いてあったそうです。もちろん、毎日食べるジャムは、それでいいでしょう、価格が安くできますから、今では、そのジャムをレトロジャムと呼ぶらしいですが、本当は違うんです。本物のジャムは、普段食べているジャムと味も香りもまったく別物です。
自然と、人の知恵が作り出した、心に響く本当の美味しさなんです。
そして、それは、食べた人だけに与えられる至福の経験です。
私たち、「ジャム工房 狐の香り」は、そんな本物のジャムを作っています。